鮮魚や野菜の鮮度を落とさず長時間輸送が可能に 変わりゆく生鮮食材の物流
魚や野菜など、生鮮食材の鮮度を保ちながら遠方に輸送する生鮮物流の姿が、じわりと変わり始めている。
昨年から、国内物流大手の日本通運グループ(以下、日通グループと略)から注目のサービスや仕組みが相次いで登場している。どれも、これまでより鮮度を長く保てるため、遠隔地への輸出ができ、鮮度が速く落ちてしまう食材、いわゆる“足が速い”ものにも対応できる。今後の生鮮物流のあり方を一変させる可能性を秘めている。
日通グループが提供し始めた鮮度保持能力の高い生鮮輸送サービスは、大きく三つ。日本通運が「空飛ぶ鮮魚便」と「フレッシュ青果便」という二つのサービスを2017年の3月から提供し始めた。さらに、日通グループの商社機能を担う日通商事が「Hybrid ICE」(ハイブリッドアイス)という製氷装置を核にした生鮮物流システムを2016年から販売している。
輸出をにらんだ二つのサービス
日本通運が提供する二つのサービスはどちらも輸出用に提供されるものだ。
日本の生鮮食材の輸出については、現状では香港や台湾、中国、タイ、シンガポールといった近隣諸国へのものが過半を占める。それも直行便があったり、輸送の過程でコールドチェーンが維持できたりする地域に限られているのが現状だ。現在よりも長く鮮度を保てる輸送技術やサービスがあれば、輸出圏は大きく広がる。鮮度落ちの問題で輸出をあきらめていたような食材も海外に出せるようになり、水産物や青果物の輸出事業者の選択肢は確実に増えてくるのだ。このような動きは、2019年に日本の農林水産物・食品の輸出額を1兆円に拡大しようという政府目標の達成に対しても大きな役割を果たすことになる。
二つのサービスのうち、日本通運の「空飛ぶ鮮魚便」は、鮮魚を一般貨物の扱いで輸送できる航空輸送用のサービスだ。
このサービスでは、同社が積水化成品工業と協同で開発した「Flying Fish Box/飛び箱」(以下、飛び箱)という特殊な形状の発泡スチロール製保冷容器を使う。保冷性能の高い「飛び箱」に氷と共に鮮魚を入れて輸送する。
「飛び箱」は一見すると、何の変哲もない発砲スチロールの箱だが、側壁を中空層にしたり、底面に“すのこ状”に加工した発砲スチロール製の仕切り材を入れることなどによって断熱性を高めている。
日本通運が積水化成品工業と協同で開発した「Flying Fish Box/飛び箱」。何の変哲もない発砲スチロール製容器に見えるが、側壁を中空にしたり、底面に仕切り材を入れたりと断熱性を高める工夫を様々に凝らしている(写真上と左下:日本通運提供、右下:高山和良)
「空飛ぶ鮮魚便」の担当者で、自らがアイデアを出して飛び箱の開発に当たった同社 事業開発部課長の森重勝己さんは、「保冷性能を極限まで高めようということで当初の開発目標は従来品の2倍だったんですが、最終的には2.8倍にまで上がりました」と高い保冷性能を説明する。2.8倍というのは、従来の容器と「飛び箱」に、同じ重さの氷を入れて24時間30℃の環境にさらした時に、残っている氷の量が従来容器に比べて2.8倍あるということだ。
森重さんはこの「飛び箱」について次のように説明する。
「鮮魚を運ぶ場合に一番多く使われる冷媒は蓄冷材なんですが、私どもとしては美味しいものをきちんとお届けするには氷を使うべきだと思っています。でも、重量を増やしたくないので氷はできるだけ減らしたい。このためには、保冷性能の高い容器が必要になります。従来の容器でも単純に壁の肉厚だけを上げれば保冷性能は上げられますが、材料分でコストも上がってしまいますし、何の新規性も独自性もありません。飛び箱では側壁を中空にしたり仕切り材を使ったりといろいろと工夫をしています」
日本通運 事業開発部 課長の森重勝己さん。「飛び箱」には森重さんのアイデアがふんだんに取り入れられている(写真:高山和良)
仕切り材は底からの熱の侵入を防ぐのが大きな役割だが、ほかにもいくつかの機能がある。氷は時間が経つにつれて溶けていくが、仕切り材があることで残った氷と溶けた水を分離できる。氷は溶けた水と混じると溶解が速く進んでしまう。この二つを分離したことで、氷が長持ちするようになり、保冷性能が上がった。さらに、仕切り材があることで、魚が水に浸りにくく身質が悪くなりにくいという副次的な効果もある。
気になるコストだが、「空飛ぶ鮮魚便」では従来の容器を使った生鮮輸送よりもむしろ安くなる。従来の生鮮輸送では、空輸の際に空港での保冷庫保管と航空機内での低温輸送を組み合わせたコールドチェーンを維持するためコストが高くなってしまうが、「空飛ぶ鮮魚便」では容器そのものの保冷性能が高いため、一般貨物と同じ扱いで常温での輸送を行う。運賃はもちろん一般貨物と同じで、空港での保冷庫保管が不要になるため、その分のコストが下がる。
箱のサイズは現状で二種類。最初に開発したものが415×625×275(高さ)㎜というもので、この11月には大型魚を入れられるよう200㎜ほど深くした容器を開発。こちらは、海外で人気が高まっている養殖ブリなどが入るサイズだ。
「今後の課題としては容器サイズの種類を増やしていかなくてはいけませんが、金型を作るのにもそれなりにコストがかかるので、まずは今あるものを実際に使っていただき、良さを実感していただきたい。個人的には、日本ならではの物流の工夫が加わることで日本の美味しいものがちゃんとした形で海外の食卓に届くようにしたいですね」と森重さんは意気込みを語る。
资料来源:互联网
转载时间:2019年05月15日
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